SSブログ

「マグノリア」アンタすごいよP.T.A [映画レビュー※ネタバレ注意]

マグノリア

マグノリア

  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 2006/07/19
  • メディア: DVD

ポール・トーマス・アンダーソンは本当にやってくれる。

ブギーナイツで片鱗を見せた、多数登場するヒトビトを器用にさばききる手腕はここで真価を発揮。練りに練った脚本とともに、見事な作品を作り上げた。「マグノリア」。キリスト教的「救済」をモチーフにしながらも、押し付けがましくも説教臭くもなく、非キリスト教圏の人間にもある意味理解しやすい形でみせてくれる。

大まかなストーリーとしては、子供クイズ番組を軸に、製作者・司会者と家族、その家族とかかわりあう人々、クイズ番組に出演中の天才少年、そして昔出演した(レコードホルダーである)元天才少年(20歳をはるかに過ぎてただのおっさん)の一日をひとひねりしたグランドホテル形式で描いている。

ポール・トーマス・アンダーソン(以下、略してP.T.A)は脚本構成力に定評があるが、本作もまさにそれが結実しており、189分という長尺を飽きさせることなく纏め上げている。この「189分」という数字には意味があり、確かに89分と189分という選択なら、189分しかなかっただろうな、と思う。つまりこの作品は「89」また「82」という数字が裏テーマとなっており、冒頭近くで表示される降水確率82%、クイズ番組収録シーンでひそかにADが掲げる「exodus82」というフリップボード、といったように繰り返し観客の意識へ「82」「89」という数字の存在を訴えかけている。この「82」「89」がどういう意味を持つかというと、ネタバレになるのであまり言及は出来ないが、是非映画を見終わった後で「出エジプト記」の8章2節と9節(exodus82!)を読んで欲しい。モーセとファラオのやりとりを一読されれば、なぜこの作品の中で、死を目の前にした二人の男が片方は救済され、片方は絶望へと堕とされたのか、おわかりいただけるとおもう。そして全ての苦悩を吹っ飛ばす「降り注ぐ救済」の意味も。

練りこまれたプロットかつ丁寧に編集されているとはいえ、さすがに189分は長い。冒頭で紹介される「偶然」にまつわる「不思議だがほんとうだ」なエピソードに目を奪われた後は、なんだなんだとストーリーを追いながらも、途中でだれてしまう部分も無きにしも非ず。しかし中盤以降はぐいぐいと観客を引き込み、あとはあの怒涛のラスト「降り注ぐ救済」まで一気にひっぱっていくその力量はさすがだ。この人の画面構成--画面作りをみているとその左右対称ぶりにキューブリックを彷彿とさせるのだが、もうひとつ独特の色使いというのもキューブリックを連想させる要素だ。ブルーの色調を多様するなど、P.T.Aはタランティーノとは違った意味で「独特」の地位を昨今のアメリカ映画の中で占めている。(タランティーノはこのテの「画面作り」よりも「編集」に重きを置いている気がする。BGMの選曲といった音楽部分はどちらもかなりのマニアだし力を入れているとは思うが)

P.T.A常連組のフィリップ・シーモア・ホフマン(相変わらずホントうまい。今回は本来は立ち入るべきではない受け持ち患者のプライベートにいやおうなく巻き込まれながらも、持ち前の人の良さで最後までかかわり続ける役を好演。つまり癖アリ癖ナシ両方イケる器用さが持ち味なんだな)などはさておき、みなさん劇中「FUCK」が用いられない会話が果たしてあったのかという状況をよくこなしたなと感心。見ているうちになじんではきたが、さすがにジュリアン・ムーアが「俺のちんぽなめやがれ!」と吐き捨てるシーンには驚愕。それでも彼女の腺病質な印象と上品さが損なわれないのはさすがといわざるを得ない。クイズ天才少年いまむかしを演じる二人も、小悧巧さの裏にある病的な自意識が痛々しく感じられ、ジョン・C・ライリーはいつもどおりのマヌケ善人役だがかえって安定感があってよいかも。そしてなんといっても「トムちん」ことトム・クルーズ。彼がインチキ自己啓発(スケコマシのやり方オシエマス)の教祖として登場したときは、いやすごいイキイキしていてハマり過ぎにハマって、ノリにのってこのままいくかと思いきや、ふだんの「目からビーム」演技(「俺はトム、世界はトム」演技ともいう)は影を潜め、繊細に丁寧に「奪われた息子」像をトレースしていた。やればできんじゃんかよ、となんとなくむかついたのは内緒だ。

そんなこんなで「マグノリア」まさに圧巻。とりあえずP.T.A、アタシは一生アンタについていく、と勝手に決めた。いや~んイケズ。ホントすごいよマジで。


nice!(3)  コメント(6)  トラックバック(0) 
共通テーマ:映画

nice! 3

コメント 6

ken

3日がかりとはいえ、無事鑑賞出来て良かったです。
しかもアータ、どっぷりP.T.Aの虜になっとるじゃないですか。
いやいや、今年の正月あたり、もう一度観なおしてみようかと思うほど
力の入ったレビューでした。
by ken (2006-12-06 16:51) 

瑠璃子

いやあご紹介ありがとうございます。食わず嫌いだった自分を、ホント反省。すっごく面白かったです。もうね、久しぶりに全作品チェックしようと思った監督ですよP.T.Aは!私も正月もういちどぶっ通しで見てみよう。でも何日かにわけてみると、それはそれで連続ものみたいでいいですねえ。nice!ありがとうございます〜
by 瑠璃子 (2006-12-07 07:58) 

>「出エジプト記8章2節」

があーんそーだったのかあー!
なんか普通に超常現象として面白がって見てた。作品自体を。でもそーすっと知ってる人(聖書精読者?)は、なんか判ってて見たってことなのかな?最後のカエルまで判らないもんだったのかな。でもexodusって出てるしな。まぁエクソダスなんて『キングゲイナー』の造語だと思ってた僕(調べない)でも楽しめる映画だってことで許して!
さて、聖書聖書…
by (2006-12-10 22:03) 

瑠璃子

私もエクソダス82ってなんだろうと思って、調べたら行き着いたって感じ。ちなみに「あの映画のここがわからない」というサイトが非常に参考になりますた。多分アメリカ人、聖書に日常的に触れている人たちはすぐにぴんと来たんじゃないかな。旧約だからキリスト教徒限定ってわけでもないし。まあ日本人は聖書をあまり読まないからなあ。これを機会に読んでみてくらさいw
by 瑠璃子 (2006-12-11 09:57) 

Leshige

Cheap Shipping Zithromax http://viacialisns.com/# - п»їcialis Cialis Jelly <a href=http://viacialisns.com/#>Buy Cialis</a> Amoxicillin Cure Vaginal Infection
by Leshige (2020-03-04 07:18) 

JanAscekly

Amoxicillin Clavulanic Acid Dose In Animals <a href=https://apcialisle.com/#>п»їcialis</a> Buy Dexamethasone Online <a href=https://apcialisle.com/#>Cialis</a> Amoxicillin A 45 Picture
by JanAscekly (2020-03-23 07:17) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。