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シュトロハイム「愚なる妻」「グリード」--サイレントのすごみ [映画レビュー※ネタバレ注意]

楽しみで見る映画と勉強としてみる映画があるとしたなら、エーリッヒ・フォン・シュトロハイムはおそらく、後者だとわたしはおもっている。というか、いた。

エーリッヒ・フォン・シュトロハイムと聞いてわからない人はサンセット大通りにでてくる禿頭姿の執事といえば思い出すかも知れない。セットだの凝りに凝った映像だのに莫大な製作費を費やしサイレント時代のハリウッドの限界に挑み、浪費し、社運を傾けさせ、放逐され、俳優として糊口をしのぐ羽目になった、オーソン・ウェルズ、マイケル・チミノの先駆者ともいえる非運の天才監督。彼は「フォン」という称号が名前についているが、実際のところ、ドイツにいた頃はなにをしていたのかよくわかってないらしい。八百屋かなにか、とにかく貴族階級に生まれていないことは確かだそうだ。そんなシュトロハイムの作品ツインパックで。

「愚なる妻」
シュトロハイム扮する偽ロシア貴族将校(前述した彼の経歴を考えると、嬉々として演ずるシュトロハイムの瞳に狂気すれすれのなにかを感じる)が遊ぶ金に困り、アメリカ公使夫人を篭絡しようとする。結末は当時の倫理観の強いハリウッドを象徴するかのように、勧善懲悪だが、モナコへロケせず、ハリウッドにモナコを作り上げた(当然現代のように書き割だのCGなどはないわけだからすべて原寸大という恐ろしく豪勢な代物だ)「無意味」さ、おそらくシュトロハイム自身が単に偽貴族の色男を演じたかっただけだろうな、と思ってしまえるほどの筋立ての他愛無さに比べての、本人の熱演ぶり、そして描写力。淀川長治もDVD解説の中で触れているが、偽貴族が女を手玉に取るときの手練手管、まただまされた女中が嫉妬に狂う表情、偽貴族のエゴイストぶり、場面場面が周到に考えぬかれていて、確かに天才が光っている。編集、演出、描写において年月をあまり感じさせないところが多々ある。サイレントなので、画面を注視し、まさしく行間を読み取らないと(演者の表情、モンタージュその他)どういうことをいいたいのかさっぱりわからなくなってしまうのだが、その分、セリフに頼らないことからくる間合いの大切さ、編集の見事さ場面描写の丁寧さが際立つ。いかに今の映画が安直なセリフ頼りに陥っているかがよくわかる。セリフがなくてもこれだけ伝えられることの意味を、今だから考えるべきだとわたしは思う。

「グリード」
当初は4時間の大作だったらしいが、映画会社との確執により2時間ぐらいにまで編集させられた作品。正直、それで正解だったような気がする。どうもシュトロハイムという人は、この取捨選択が苦手だったようで、あれもこれもと詰め込みすぎてしまうのだろう。トーキーならイザ知らず、サイレントでは結構無謀な気がする。イントレランスも、カットバックが早くなり展開が怒濤と化す前に投げてしまった私ではあるが、それはもうこちらの集中力のなさ、愚鈍さの現れだろう(いつか再挑戦する予定)。

グリードは炭坑夫あがりの偽歯医者マクティーグが友人(マーカス)の恋人トリナに横恋慕し、奪い取り結婚するまではよかったが、適当に買った宝くじが大当たりしてしまったことにより、妻が異常なほどの守銭奴となり、友人は嫉妬ゆえ、モグリの医者であることを告発し、診療所を閉鎖され困窮に陥った主人公は妻と別れ、浮浪者にまで零落し、前妻の貯め込んだ金を狙ってこれを殺害、金を奪おうとする友人と逃げ込んだ死の谷で灼熱の中悲劇的な結末を迎える、というのがストーリーである。「愚なる妻」で切れ味がよかった場面描写に、さらに古典的モンタージュ(悪魔のような手が金貨をひたすらなで回す、二人の男女を手が握りつぶすシーンなど)を加え、異様な迫力に満ちた作品となっている。

たとえば、結婚式のシーンで、マーカスから結婚祝いで贈られた懐中時計にトリナは目を輝かせるが、マクティーグから贈られたつがいの鳥には馬鹿にしたような笑みを浮かべている、そして結婚式の最中、窓の外には葬送の列がゆっくりと進んでいる。
あるいは、守銭奴ととなったトリナが金貨をベッドの上に並べ、その上で恍惚となって眠るシーンなど、これでもかこれでもかといった展開である。こういう飽きさせない工夫が非常にうまい。サイレントなので、特有の演技表現(目玉を裏返すぐらい目をむいたり、拳骨を作ってカメラに向かって振り上げてみたりといった大げさ極まるしぐさ)が奇妙には思えるけれども、それを差し引いても非常に面白い作品だった。

二つの作品に出てくるのは、善人ではあるがある種の誘惑に弱い人々、またはなにかをきっかけにして運命が悲劇の方へ大きくかじ取りをしてしまった人であり、シュトロハイムの「しょせん人間なんてこんなもんだろ」といった冷笑を感じる。淀長さんは「デミルの娯楽とグリフィスの文学でアメリカ映画は大人になった」といっているが、シュトロハイムのリアリズムで現実を知ったとも思える。サイレントだからといって勉強だけで終わらない場合も有る、ということである。見どころ多し。

シュトロハイム狂気のツインパック

シュトロハイム狂気のツインパック

  • 出版社/メーカー: アイ・ヴィー・シー
  • 発売日: 2004/09/24
  • メディア: DVD


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