初恋；地獄篇ーー性のドグマ、解放先は女闘美なのか？

初恋；地獄篇。監督羽仁進、脚本羽仁進、寺山修司。脚本における「寺山修司」という名前をみればなんとなく想像ついてしまったりするのだが、この映画には「母恋（乞い）」、「男根（とセックスにおける去勢恐怖）」が強迫観念的に通底している。だが基本冷笑的なので、客体化されたユーモアにまで昇華されているから痛ましくも美しい青春モノ作品として光り輝いている。

物語は母に「逃げられ」、教護院に送られたが彫金屋夫婦に拾われ、暗い表情のまま黙々と彫りに打ち込む少年シュンと、静岡から集団就職したが流れ流れてヌードダンサーになった少女ナナミが心を通わせるまでが描かれる。当然、この文章だけ読めば、進藤兼人的リアリズムでも浦山桐郎的深刻さでも展開しようと思えばできるのだが、羽仁進と寺山修司は状況を意識的に見つめ、観客が感情移入しようとする場面においていちいち自覚を促すよう演出をする。たとえば、孤独な少年シュンは、近所の寺院でモミという幼女と知りあい一緒に遊ぶようになるが、その様子を物陰からみていた鳥打ち帽の中年男に「すけべーえろおとこー」と騒がれ追いかけられる。商店街を走り抜けるそのシーンには「は〜るばるきたぜ〜」とからっと明るいサブちゃんだし、ナナミのパトロンである安国寺という中年と対決したシュンがいなされて負け戦となると石焼きイモ屋台が唐突に登場したり、その他、ひたすら大声で笑いあう「笑う会」なんて神経症的なネタ、ヌードダンサーご用達の岡持ちがＣＭ曲(ハウスのシチューはなんて美味しいんでしょう！)をバックに突然路上でストリーキングを敢行するなど「目に見えるものだけを唯々諾々と受け入れてんじゃねえよ」という挑発が心地よい。しかしなんといっても物語の進行とは全く無関係にしつっこく延々と舐めるように映し出される女闘美（めとび）には脱帽。ナナミと金髪女が白装束、家畜人ヤプーのクララみたいな格好で格闘したり、高島田を結った肌襦袢姿の女をいたぶったりなど、凝りに凝っている。いちばんやりたかったのはこれじゃねーの？それはさておき。

シュンは養父に犯されたので、性に対して去勢的男根オブセッションを保持しており（やたら少年のﾁｿｺがでてきたりテング様のお面がシュンの部屋にあったり等、寺山さんアンタも好きねえ）、童貞棄てる！とナナミを連れ込んでもなにもできない。（このときの連れ込み宿が木造アパートの一室をちょっと変えただけという代物で、現代的ラブホが戦後ニッポン復興の証左かわかろうというもの）だが相方ナナミも安国寺を通して性の地獄巡りをしていることを知り、徐々に自分を解放し始める。性を「見た・知った」後に訪れる「初恋」の図式は多分に逆説的だが、だからこそ不器用で美しい。二人はすり合わせるようにして身体を暖めようとするが、そう都合よくイカされないのです。

劇中何点かスチール写真が出てきてこれがまたやたらよかったので印象的だがそれもそのはず沢渡朔だったりとバックメンバーも豪華である。当たり前だが、40年ほど前の新宿上野はもはや別世界というか異次元。女闘美を堪能したい方も、不器用な少年少女の愛なんていうテーマにヨワイ方も、またそうでない方も、シニカルで逆説的な「初恋」物語をどうぞご堪能あれ。

「キャベツをむくと芯がでる。ではタマネギむくとなにがでる？」

初恋・地獄篇

• 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
• 発売日: 2005/10/21
• メディア: DVD

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