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「幻の湖」をみた。 [映画レビュー※ネタバレ注意]

幻の湖

幻の湖

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • 発売日: 2003/04/25
  • メディア: DVD

デビルマンかなんかをみて、ああ邦画は本当にダメになったんだな、と言う人に対してなんの「北京原人」のような作品があるじゃないか、と諭す人もいるだろう。だが既にこの1982年東宝50周年作品によって「大作映画における邦画のダメっぷり」は露呈されている。まあ後々の北京原人なんかの源流というかなんというか。つまりこれこそキングオブ大金どぶ捨て超大作(さよならジュピターはまたちょっとこの映画なんかが属する映画会社肝いり超大作映画という枠組みからははずれるような気がするので除いておく)といえよう。

たぶんストーリーを真面目に話しても私がアレな人と思われるだけなので簡潔に触れる。雄琴でトルコ嬢(現ソープ)をしておられる女性が愛犬と一緒に琵琶湖じゅうを走り回りつつ電波受信しまくって、愛犬ヌッコロされて一気に今夜はビートイット!キタコレ!となり出入りの銀行員と一回デートして結婚フラグをブチあげたり、ご先祖様との思ひ出とともに琵琶湖眺めて横笛を吹きまくっている宇宙開発研究所職員に「この人と結婚するんだ…」と妄想を抱いたり、愛犬殺しの犯人を突き止めるため上京し、有名な作曲家と教えてくれたトルコ嬢の同僚は爆音を聞いただけで「ファントムの実戦配備はまだ早い。あれはイーグルだ」とわかるような仏像マニア(みうらじゅん先生の先駆けですね)かつ米国直轄?の諜報部員だったりするわけで、そんなこんなで駒沢オリンピック前で作曲家とマラソン勝負したり、琵琶湖で日本髪と和服といういまの浴衣ブームギャル浴衣ブームの先取りのようなスタイルで(予想はつくと思いますが上に掲示したDVDの画像の格好です。そういうコスプレなソープです)おっかけっこでデッドヒート、へろへろになった作曲家を追い越し「勝った勝ったわよ!」と絶叫するもんだからアレ復讐は恩讐の方に?などと思いきや突如「お前に琵琶湖の女の苦しみが分かるカー」と作曲家に出刃包丁をぶすーと刺すとどっぴゅーーーと疑似スペルマみたく血が吹き上がったのと同時にスペースシャトルが発進して、笛の男が「太陽系がなくなっても笛は幻の湖にある」とかなんとかぶつぶつつぶやきながら宇宙遊泳しつつ琵琶湖の上に笛を置く。手でちょっとついて位置直したりして。そんな映画です。

で、上記の内容をめちゃくちゃだよなにがなんだかわからないという方は劇中劇として展開される時代劇でお市の方の息子 万福丸さまがアレな格好で串刺し(一応史実とされているのは磔なんだけど)になっている姿を見てからとりあえず判断してくれ。まあなんというかとにかく見終わった後で思うのは「最後までみた自分を褒めたい」ってことにつきますな。面白いことは面白いんですがしかしそれはあくまでもいろんな意味でっつーことですからね。とりあえず見所は回想が入りまくって入り組んで本編自体がどこか遠くに旅立ってしまったりするところとか、この主人公の電波受信感度良好具合とか(「東京中の人間が日夏を私に会わせないようにしている!」)、また記号的なあまりに記号的な演技とか(とりあえず感情の高ぶりはすべて声の強弱で表現。能面のような顔でやるからそれが電波度を強力に押し上げているのだが)、愛犬シロはリアリズムを追求する橋本忍班におかれましてはメデタクご臨終とあいなったのでは?というところとか様々です。長谷川初範の噛ませ犬っぷりもまたたまりません。(どうでもいい役に菅井きんとか無駄に豪華キャストっていうのもまたたまらんばい)とりあえず山盛り三杯飯もってこいや!とちゃぶ台にドスを叩きつけたくなるのは間違いないですな。

第一ねえ。なんというかその、主人公がお市さんという源氏名のトルコ嬢という時点でもうなにか方向性が決まった気がします。なにしろそのトルコをイタすところが黄金の風呂だったりして行ったことのないワタクシといたしましてはもう、おのこのすなるソープというところはこないなところでございますな、と得心した次第。重労働たる泡のお仕事に疲れ果てた主人公が白い犬シロと出逢い、彼とともにジョギングすることでイヤされる癒される、まあそんな日々だったんですが(ところで冒頭お市さんが取り出して握っている棒はなんなんですかね?)ヌッコロされてしまいそれが故に狂気へと旅立つ。(まあもともと愛人になれという常連客に向かって「アタシは一年後に結婚するの…あいていないけど」と妄想を得々と語ってしまったりしてそのあたりに電波なかほりが漂って伏線?となっているらしいんですが)現代におけるペットロスを先取りした描写といえなくもない。ちなみにサミュエル・フラーはこのあたりの狂気に衝撃を受け早速あの名作「ホワイトドッグ」を撮影したらしい(テケトウ)。こんなイッちゃっている方が「シロを殺した…ニクイ!」などと絶叫していても、観ている側はどんどん「そんな犬っころごときで」とお市さんのライバルとして登場する淀君ねえさん(かたせ梨乃……)みたいな台詞がつい口の端にのぼってしまいそうになる、なんというか主人公に共感しづらいようにあえて作った橋本忍先生はおそらく現代における狂気と正気そしてペットロス、宇宙パルサーとはノストラダムスの予言にも書いてあるしということを訴えたかったんではないでしょうか。人の心癒すのは犬でもジョギングでもなく十一面観音だよ、と現代社会に警鐘を鳴らしている素晴らしい作品ですね。(棒読み)

しかしですね、これは東宝50周年記念作品。大山勝美だの野村芳太郎だのが製作に名を連ねている東宝50周年記念作品にもかかわらず一週間で打ち切り、なおかつ20年もソフト化されなかったっていうのがこの作品の立ち位置を如実に示してますな。とにかくどうしてこんな作品が出来たのかがまず一番の謎。どういう意図でどういう方面になにをどう訴えたかったのか、このあたりが皆目検討がつかない。くどいほど繰り返し表現される琵琶湖だの唐突に「彦根城」なんて白抜き文字がでるところからすると滋賀県観光協会もしくは日本ジョギング連盟から圧力があったのかしらん。とまれ、橋本忍先生になにがあったのか、それがいま一番知りたいかも。


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以前、TV Bros.の特集を読んで、どんな作品か興味を持っていたのですが、僕の想像を遥かに超える素敵さです。。。北京原人といいビッグ・マグナム黒岩先生といい、日本映画は時として思いもよらぬトリックスター的な作品を生み出すので目が離せないです。
by (2006-08-14 18:57) 

さいとう7

amazonに掲載されているこれの解説文が、簡潔かつ完璧で有名みたいです。
以下引用。
=====
何者かに愛犬を殺されたソープ嬢・道子は復讐を誓い、犯人を捜し始める。実はこの復讐劇には戦国時代からの怨念が絡んでおり、さらに事態は政府の宇宙開発を巻き込み、ジョギング対決へと発展していく。
by さいとう7 (2006-08-16 15:12) 

瑠璃子

nice!ありがとうございます!

灯台長氏
なんつーかダメ映画をダメ監督がとるのはわかるんですが、どうにもこれは…あの橋本忍がなぜこんな作品を?っていうところがこの映画の最大の面白さじゃないでしょうかw
私は小林信彦の本を読んで、唐獅子株式会社がいかにダメ映画になったかを知り、構造的ななにかがあるんだろうな…と思いました。ぜひこの映画みてくださいませ!

さいとう7氏
うーーーむ。確かに簡潔でそれ以上なにも足さないなにも引かない状態ですなw名文だw
ただそれだけだと観客が思っていると万福丸の食人族ポーズに驚いたりするのでなかなか侮れないですなw
by 瑠璃子 (2006-08-17 17:03) 

Hiji-kata

も、もうダメだ!
苦しい! 笑い過ぎた。

 
by Hiji-kata (2006-11-18 14:23) 

瑠璃子

土方さま
喜んでいただけたようで幸いですわ☆nice!ありがとうございます~
by 瑠璃子 (2006-11-22 10:59) 

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