「ブラック・ダリア」デ・パルマ監督最新作をGTFの試写会でみてきた。 [映画レビュー※ネタバレ注意]
雨。
闇夜をまとわりつかせた漆黒の美女はいつだって俺にやっかいごとを押しつける。
そんな風にはじまるいわゆるフィルムノワール、1940年代から50年代にかけてアメリカでつくられた一連の犯罪映画の雰囲気を色濃く残しつつ、デ・パルマ流に換骨奪胎しているのがこの作品「ブラック・ダリア」だと私は思う。
そんなわけでGTF主催のデ・パルマ最新作「ブラックダリア」試写会に参加してきました。今回私が観たのは映倫通してないバージョンなので(もしかしたら世界初公開っちゅーシロモノだったのかもしれない)感想はネタバレしてませんのでご安心を。 なお映倫の審査によっては私が観たものとは一致しない作品が公開される可能性があり、以下に記すレビュー内容とは異なる恐れがあります。その点は何卒ご理解ください。また私はエルロイの原作は未読のため、原作と比較してというよりも単なるデ・パルマ好きという視点からの感想となります。
ストーリーは実際に起きたブラックダリア事件をふまえつつ、その猟奇事件に絡め取られていく二人の刑事(彼らは拳闘を通じてコンビを組む)――バッキー・ブライチャート(ジョシュ・ハートネット)とリー・ブランチャート(アーロン・エッカート)とその愛人である元娼婦ケイ・レイク(スカーレット・ヨハンソン)、そして捜査を通じて知り合ったブラックダリアそっくりの美女ことマデリン・リンスコット(ヒラリー・スワンク)とその家族の華麗なる上流階級ぶり。主人公が直面する裏切りにつぐ裏切り、そして依頼人の美女によって破滅する…なんて展開になれば完全にフィルムノワールなんだけど、さすがデ・パルマ。類型に陥るようで見事に肩透かし。そしてラスト。唸るしかいいようのないできでございました。
映画の雰囲気は「アンタッチャブル」みたいなスタイリッシュ40後半~50年代だった。なので残酷描写がきわどくても、そんなに胃の腑にくる感じではない。意外とあんなもんか…とスルーできる。役者個々人の感想を述べれば、スカーレット・ヨハンソンは声がジャイ子みたいでちょっと萎え。個人的にはこの手の昔風金髪美女を演じるにはちょっと顎が細いかな…という気がしないでもなかった。こういう美女のイメージだとどうしてもキム・ベイシンガーが私の中で最高峰(リタ・ヘイワースなんかをもってくるのはちょっとルール違反という気がした)なので、あくまでも多少ってことでひとつ。漆黒の美女役を担うヒラリー・スワンクはケイト・ベッキンセールをちょいゴツくした感じで妖艶というよりもラフレシアとか与那国の巨大蛾(ヨナグニサンってやつね)みたいだったが、話の流れが妖婦の魔魅力に迷って…というよりも、ヨハンソンといろいろあったからあっちへ…みたいな展開だったのでセクシー過多じゃないほうが説得力出ていた気がする。「一応」美人に撮れていたし。
んで肝心の主人公であるジョシュ・ハートネットだが、割とよかったけれども、興奮状態とか気分の高揚なんかを「手の震え一点勝負」で表現していたのが個人的にはクサく思えた。もう少し目の表現とか使ってくれればなあというところか。その相棒役であるアーロン・エッカートはファイアとのあだ名そのままの直情型刑事を鬼気迫る様子で表現していてよかった。その他特筆すべきなのはブラックダリア役のミア・カーシュナーが最初登場した際はあんまり似てないなと思ったけれども、フィルムテストシーンなんて本人か!?と思うぐらいにそっくりでオドロキ。そうそう、忘れちゃいけない「ファントム」ファンには懐かしいウィリアム・フィンレイがやっぱり…という役どころででていたのがたまりません。(顔がめちゃくちゃにされたという割には特殊メイクもせずそのまんまで登場してたりして、そのあたりがまたよかった)
映画の全体のできとしてはデ・パルマが完全に趣味に走っていて、 銃撃戦のシーンやらにデ・パルマっぽさ(ってどんな感じだよといわれるとアレだけど)が現れていたし、ちゃんと窃視症的表現もだしていたから、よかったよかった。ブラックダリアの死体表現も凝っていたし。これから観られる方はこのあたりに是非注目して下されたく。 サスペンス的謎解きは確かにちょっと物足りないように思えるが、デ・パルマの主眼はむしろそこではなく「ユリシーズ」のような英雄帰還譚として捉えているのではないだろうか。サスペンス的要素を期待していくと的はずれというような印象になる恐れはある。魔都ハリウッドをひとり彷徨うジョシュ・ハートネットは地獄巡りを終え無事にホームへ帰れるのだろうか。そして彼にとってのホームとは一体どこなのだろう?
この「ブラックダリア」は同じエルロイの「LAコンフィデンシャル」に比べると、あちらが娯楽よりだったことを考えれば、完全にサスペンス娯楽の要素を斬り捨てている(と少なくても私はそう思えた)ので大ヒットもしないだろうし、大傑作というにはちょっとはばかられるものもあるが、デ・パルマ好きなら満足できると思う。原作好きにはどうかはわからんけど、とまれ、この、よくもわるくも「デ・パルマ」を全方向へ噴出しているサマ、最近の職人監督ぶりをかなぐり捨てたマニアックさを是非デ・パルマ好きなら目の当たりにしてほしい。
- 作者: ジェイムズ エルロイ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1994/03
- メディア: 文庫
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映像配信サイト「X-TV」編集長:雉と申します。
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by 雉雅威 (2006-08-13 03:22)
はじめまして。ようこそお越しくださいました。
TB送れなかったようでしたので、コメントを残しました。
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by 瑠璃子 (2006-08-16 23:43)