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ニライカナイからの手紙――楽しく酔わせて欲しいのに [映画レビュー※ネタバレ注意]

ニライカナイからの手紙

ニライカナイからの手紙

  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 2006/01/24
  • メディア: DVD
この映画はどうしてこうも季節感がないのだろうか。
 
来るべき八重山諸島観光に備えモチベーションをあげるために「ニライカナイからの手紙」を見る。劇場に見に行こうかと考えていたが結果としてはそうしなくてよかったと思う。
 
この物語は幼くして父を亡くし、母が東京に行ってしまった風希という少女が主人公である。彼女は沖縄・八重山諸島にある竹富島で郵便局局長を担当する祖父(おじい)に育てられている。母からは自分の誕生日に届く手紙が唯一の縁である。やがて亡き父と同じくカメラマンになりたいという夢をもった風希は東京渋谷でカメラマンの住み込みアシスタントをするようになる。14歳とき、母から「20歳になったらすべてを話す」と記した手紙が届いた。東京で迎える19歳の誕生日に届けられた手紙には「来年の誕生日、井の頭公園の弁天橋で待ち合わせましょう」と書かれていた。そしてその日が…。
 
風希という少女の成長物語(と謎解き)が主なテーマなのだが、郵政公社がスポンサーだけあってこれでもかこれでもかとでてくる「ゆうパック」「郵政公社」の文字。それだけでまずかなり興ざめなのに、おもいっきり撮り貯めしたな……とわかる季節感のなさ。例えば風希が東京でカメラマンのアシスタントとなり、日々の暮らしの中で摩耗していくが、やっぱり私は写真を撮ろうとばかりにそのへんの親子にモデルを頼んで街角写真に励む場面。それはいいのだが、(おそらく素人さんの)親子が長袖厚着しているのに、なぜか風希だけはノースリーブに近いTシャツ、しかも日差しは長くいったいこれはどういう季節なのか皆目見当がつかない。この「秋や初冬特有の長い日差し」は東京のシーン全行程を通じて共通しているため、メリハリがなく、見ている側としては時間の経過その他が非常に理解しづらい。そのため「もう一年ね」の台詞ひとつで納得させられているような、映像としてのアラがかなり目立つ作品となってしまっている。
 
映像が映像なら脚本も同様。風希が郵便局に飛び込み、自分宛に届いた手紙を差し出して「この手紙をだした人の住所を教えてください」といったりして、今日日高校卒業するぐらいの学力があればそんなことは不可能であるとわかりそうなものだけれども。この手の不思議系描写は一番キモである風希が昼頃東京をでて竹富島へ戻ってくるシーンにも遺憾なく発揮されており、第一そんなに簡単に航空チケットがとれるのか?また帰ってきたときも陽光がさんさんとしておりとても夕方とは思えず、近所へ買い物に行って帰ってきたんじゃないんだから……とげんなりした。どう計算してもそれよりも後に東京を出発したおじいが、夜になって戻ってきたりして「いやアンタそれは無理ですから」と突っ込みを入れてしまったぐらい。このあたりの西村京太郎的ツッコミは野暮だとは思うが、そこに気づかせてしまうのは作品としての「負け」であり、この映画はどうしてうまく観客を騙せないのかとイライラしてきてしまったりする。(まあだいたい「ニライカナイからの手紙」というタイトルの時点である程度の知識があるものであれば結末も展開も予測がついてしまうのだが)
 
そもそもアメリカの情勢もフランスの国内問題もベイルートへの侵攻も「いま、ここ」で情報がえられるような、いわゆるIT時代において母親が子供へ誕生日にのみ手紙を送る、ただそれだけがコミュニケーションであるということに説得力をもたせることはかなり困難だ。それに対するエクスキューズとして「離島だから」と言うこと自体にかなり無理がある。そのあたりをどう料理するのか大変に期待して見たのだが、結果としてはご都合主義が目白押し。ゆえに最後のいわゆる泣かせるシーンも印象としては「あざといな」としか思えなくなっている。
 
全編を通して感じられる「沖縄への過剰な思い入れ」(いわゆる本土人特有の筑紫哲也的な)も気になる。沖縄は善、東京はごみごみしていて善意もなにも無になるという東京砂漠理論はさすがにもう通用しないだろ…と思ってしまった。こういう紋切り型のオキナワ映画を作ってしまうあたりにシネカノンという映画会社の抱える特有の「病」を思ってしまった。もういい加減こういう発想はやめるべきだ。こういう映画を前にして観客が望むのは「いかに楽しく酔わせて貰うか」その一点である。オキナワのエキゾチズムでもいい、離ればなれの親子が織りなすお涙頂戴ストーリーでもいい。そのために決定的に必要な何かがこの映画にはずっぽりと欠けてしまっている。「観客を酔わせる」ということについて監督はもう少し脚本・映像の説得力、細部の詰めを精査すべきだった。
 
演技面で言えば、平良進(平良とみのご主人ですな)南果歩の二人は主人公の表情のなさ起伏のなさを補ってあまりある。メリハリのない映像描写、表情、感情のない主人公とダメ映画の条件は揃っている中で確実に泣かせる力を鑑賞者に与えている。だがそれだけに頼ってしまったせいで、結果従来のオキナワというエキゾチズムに依拠した凡百の「リゾート題材映画」の枠からなんらはずれることのない作品となってしまった。題材テーマ共に挑みがいのあるものなのだから、もう少しなんとかすれば……という感が残る「アイドル」映画だった。もしかしたら郵政公社が訴えたかったのは「郵便局はいつもあなたを見ている」というビックブラザー的プロパガンダだったのかもしれないが。

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ガワ氏

見たことがないので、読んでの感想でしかありませんが、なんとなく郵政公社の必死さが伺えますね。コレは私見ですが、そういった露骨なコマーシャリズムというのは当然あってしかるべきだと思います。オブラートに包んだ感じよりすっぱりしていて、動機が何処にあるのかが分かりやすくていいです。

只、瑠璃子さんの文章を読んで、面白くなさそうなので映画館は足を運ばないことに決めましたが。お金がもったいない気がするので。
by ガワ氏 (2006-07-24 09:59) 

くまぞお

うちのほうでも「ニライカナイ」って言葉があるんですが
崇拝の類の言葉ということもあって
日常でやたらめったら聞こえてくるわけではありません。
観光とかテレビでは「ニライカナイ」をよくみかけますが
そのたびにお安い印象しか残らなくなっています。
おかサーファー御用達ショップの名前にありそう。
・・・実際にあるのですが詳細は割愛します。

こういう映画なら沖縄より瀬戸内海の島々を舞台にしたほうが
リアルでいいと思うのですが・・・。

沖縄、とか八重山って使うとみんな憧れますからね。
なんだかんだいって自分も。まだまだお安いわ。
by くまぞお (2006-07-27 11:35) 

ken

郵便局へ飛び込んで「この人の住所教えて!」は酷かったっすねー(笑)
「おまえオバカにも程があるだろう」
って全員が思ったんじゃないでしょうか。あんな芝居をさせられた蒼井優には
激しく同情します(笑)。
by ken (2006-08-14 17:47) 

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