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彼が生きる小さな世界 [マボロシの男たち(エロ風味)]

彼は日々、小さな世界で生きている。

元々、私が彼を知ったのは、web上で載せている路上観察ネタからであり、出発点がそもそもそんな具合だから、彼の感じる日々の喜びが小さくささやかなものであるというのは当然の帰結かもしれない。

スピードがさ、違うんだよね、とポルコ・ロッソくんはいう。
「面白いのは、ものすごく速い人とものすごく遅い人のコンビだからある意味絶妙といえるんだよ。つまり中途半端にずれていると落差がつくんだけど、一周速いのか一周遅いのかあるいは両方なのか。どちらにしろ結果同じところにいるっていうのがさ、すごいとおもう」

私もそう思う、と同意してみる。ときどきいらいらするよ、と付け加えた。「でも結局そういう風に思ってしまったら“負け”というか、私は彼のその独特の速度が好きになってわけで、そこを否定してしまうことになるでしょ?だからイライラすると自己嫌悪に陥る」

ごちそうさま、と声を上げてポルコくんは笑う。本能なんだよね、と気にせず続ける。

「私もいい加減かなり感覚的な人間だと思ったけど、彼には負ける。彼には感情も無くて、ただ快不快原則、それに従って動いている。だけれども無節操ってわけではなくて、“少年の純情さ”を堅守しつつ、しかもあの年で自覚的に。そこが凄い。私なんてロジックで動く、非常に論理的なツマラン人間であることがよく分かったよ」
それはどこか敗北感に似ていた。勝つ気なんて、元からさらさらないけれど。

この間、俺の髭が枝毛になっている画像送ったでしょ?と彼からメールが来た。メールには小さな毛で白い紙を引っ張っているようなフシギな画像が添付されていた。髭枝毛、面白いからとっておいたんだけど、今日、それがかなり吸着力があるってことに気づいたんだ、こんな風に紙に吸い付いて結構丈夫で容易にはとれないんだ、でね、と彼の文章は続く。
「多分自分は、対不特定多数あるいは対誰かと、対峙したり議論したりというのがすごく苦手で、おそらくできないんじゃないかとすら思う。自分の“星”は、こういう小さな発見を隣にいる誰かと分け合って生きていくことだと、なんとなく啓示を受けたんだ。」文章は、ボクはこんな人間だけどどうかよろしくね、と締めくくられていた。

彼はかそけき音へ絶えず耳を傾けながら生きている。はたから見ればそのちっぽけさは哂う対象にすらならないものだろう。だけれどもそれはあの粘菌の世界のように、ミニマムだが驚くほど芳醇で多様な広がりをみせ、そして深い。私は彼と顔を寄せ合ってその世界を見つめていきたい、とふと考えた。


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