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「郵便配達は二度ベルを鳴らす」ヴィスコンティが生んだネオレアリスモ [映画レビュー※ネタバレ注意]

郵便配達は二度ベルを鳴らす デジタル・リマスター 完全版

郵便配達は二度ベルを鳴らす デジタル・リマスター 完全版

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • 発売日: 2006/02/25
  • メディア: DVD
おそるべきヴィスコンティのデビュー作。後年の絢爛豪華な画面からすると隔世の感が有る白黒リアリズムだが、ドラマティックな展開、男女の愛憎の機微、悲劇的な結末と重厚に織り込まれた物語は既にヴィスコンティとして屹立している。初めて手がけた作品とはとても思えない。
 
夏の暑さは情痴を殺意にまで膨れ上がらせ、閉塞した男女関係は、初めて外へと向かったとき、終局が訪れる。途中ホモっぽい描写もありつつヴィスコンティ、男女の愛憎を描き切る。ネオレアリスモは同時多発的に産声を上げたが、この作品はその端緒となった。
 
「郵便配達は二度ベルを鳴らす」は都合いままでに3作、映画化されているが、このヴィスコンティのものがいちばん最初である。ハリウッド版は未見のため(そして原作も未読)、どうちがうのかはよくわからないが、ここではサスペンス要素をばっさりときりすて、どちらかというとそれは感情の襞を映し出すひとつの「道具」もしくは「スパイス」として機能させているくらいだ。
 
ストーリーは流れ者の男が、ガソリンスタンド兼食堂へ立ち寄るところから始まる。ジーノはトラックの荷台に勝手に乗り込んでは行き当たりばったりに整備の仕事をしている男で、そのとき金はなかったが、食堂で飯を食って逃げてしまう。店主のブラガーナは連れ戻し、車の整備やら店の手伝いをさせる。店にはほかに彼の一回り以上若い妻ジョヴァンノがいた。ジョヴァンノとジーノは一目で惹かれあい、亭主の目を盗んで情愛を重ねる。愛もなくただ安定した生活のために結婚したジョヴァンナをジーノは駆け落ちに誘うが、いったん駅まで来たところで、彼女は戻ってしまう。「流れ者の生活には耐えられない」
ジーノはそのまま列車に無賃乗車を決め込むが駅員に見つかる。窮地の彼を旅芸人のイスパーニャが救う。彼は旅費までだしてくれた上、一緒に旅をしようと誘いかける。ジーノはイスパーニャとともに旅の生活を続けるが、あるとき興行先で偶然ブラガーナ夫妻と出会う。ジョヴァンナを忘れられないジーノはそのまま夫妻の車に乗り込み、酔っ払ったブラガーナを事故に見せかけ殺してしまう。
厳しい警察の追及を逃れ、やっと二人の生活が始まると期待するジョヴァンナだったが、ジーノは罪悪感にさいなまれる。そこへイスパーニャが現れ、旅の生活へ再び誘うが、激しく拒絶する。傷ついたイスパーニャは警察へ密告。ジーノは街でであったアニータという女と情事を交わすが、ジョヴァンナに知られてしまう。警察に指名手配されたジーノはジョヴァンナの密告と思い込み、彼女の元へ怒鳴り込むが、変わらぬ愛とおなかの子供を告白され、逃亡を決意。だが、運命は彼らを見捨てず、さらなる悲劇へ追い込むのだった。
 
これが初めてとは思えないほど、ヴィスコンティの演出は磐石で迷いがない。夏の暑さは人を狂わせる。その情痴の密度を乾いたタッチで魅せてくれる。ブラガーナ殺害を決意するシーンなぞ、特に相談するわけでもなく、お互いの身体の中に膨れ上がった殺意が、目と目を合わせたことをきっかけに決壊するなど、実に小憎らしいぐらいリアリスティックだ。編集もうまい。例えば通常、特にハリウッド映画ならば、ブラガーナの殺害場面を微にいり細にいり、パン、フォーカス、角度クローズアップなどを多様しながら迫力を出すように演出するだろうが、ヴィスコンティはジーノが運転を変わったシーンのあと、事情聴取を受けるジーノとジョヴァンナにすぐ切り替えてしまう。ここで観客はサスペンスが主題ではなく、監督が原題どおり「妄執」を映し出すことに専念していることを思い知らされるのだ。
 
その「妄執」は(後年の作品に比べればかなり薄味だが)旅芸人イスパーニャがジーノに抱く男色描写にも波及している。イスパーニャにジョヴァンヌとの生活を罵られ思わずカッとなって殴り倒す。それはまるで痴話げんかのように見えるし、イスパーニャの表情に浮かぶ嫉妬の感情が雄弁に語りだす。ブラガーナのジョヴァンヌへの妄執、イスパーニャのジーノへの妄執、そして主役二人の微妙に食い違う妄執、それぞれのベクトルが複雑に交錯する中で、悲劇が織り成される。殺した男の家に平然と住み続ける女の図太さ(そして殺した男のベッドで夜な夜な繰り返される痴態)。罪障感にいたたまれなくなった男は手伝いの少女に尋ねる「俺って悪人に見えるか?」この救いようのなさをネオレアリスモとするならば、確かにここで産声をあげていると私は思う。うだるような暑さ、猫のわめき声、男と女。それらが愛憎と情痴を伴いくっきりした輪郭で浮かび上がる。
 
正直、途中でかったるく中だるみする箇所もあるが(特にモノローグが続くところなど)展開、編集いうことなし。原作からサスペンス要素をそぎ落とし、絵空事ではない人間の生身の姿を叩きつけたような作品。原作に忠実な(そしてモデルとなったルースとジャドの事件が起こった)ハリウッド版(ジャック・ニコルソンのじゃなくてラナ・ターナーの肢体が魅惑的なほうね)がどう差異をつけているのか、そちらも楽しみだ。

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コメント 4

toraonikki

生誕100年のヴィスコンティ。NHK-BSでも先日O.A.していましたね。
「ベニスに死す」を観て、そして本作を観て、彼のブレの無さに改めて感服している今日この頃です。
by toraonikki (2006-12-01 16:23) 

瑠璃子

本当に。彼はデビューから一貫していたんだな、と改めて思いました。変遷する監督って結構多いし、いろんな意味で「ブレ」る人が多々ですが、彼はまったくブレてない。そこが素晴らしいです。
nice!ありがとうございました。
by 瑠璃子 (2006-12-01 16:39) 

toraonikki

どういたしまして。
by toraonikki (2006-12-05 08:15) 

Cilas

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