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世界の果てへバイクのケツで [マボロシの男たち(エロ風味)]

気がついてみれば、既に空気は次の季節の準備をしていた。

お台場はやたらに明るく広い。空はうんざりするほど青いものだから私はハニー1号に、なんだかな、とため息をついた。
バイクのケツに乗っかって、レインボーブリッジを渡れば、小学生が列をなし、緑の旗がひらひらと先導する観光地があらわれる。人工的に作られた砂浜までふらふらとたどり着けば、手前に見えるかすかに澄んだ海は、それでもすぐにコールタールのような重い質感へと変わっていて。潮の匂いと観光船。私たちはそれらを眺めながら、ただ天気の話をしていた。まあさ、一人になってみるのもいいんじゃない?といくらかお気楽そうにハニー1号。そうね、とこれは私の本心で。

偽物カフェのテラスに陣取り、仕事の話を聞きながら、私はあの人のことを考えていた。私が6年かけて愛して、そして廃棄した男のことを。どちらにしろ罪障感に襲われるのだ。別れのたびに繰り返し。
「忘れたほうがいいんじゃないの?」とハニー1号が声をかける。誰のなにについてなのか一瞬わからないというのがねえ。我ながら苦笑しつつ、2年前のことをあれこれいったってしょうがないでしょ、と続けるので、どうやら私は口に出していたらしい。まあね、と応じてみる。

有明のあたりを、トラックの間をぬうようにしてバイクは進む。2016年東京オリンピック選手村予定地、なんてのをみると、その頃、私は生きているのだろうかと思った。そんな年になった。

バイクはそのまま秋葉原から言問橋、あの江戸の空気をかすかに残す隅田川のあたりをとおる。両岸に浮かぶビルの明かりと、川の先にゆらりと浮かぶ高層ビルを眺めつつ、綺麗だね、ここのあたりが東京ではいちばんいいね、と怒鳴り合い、声は喧騒と騒音にまみれてかき消されていく。

ああこのルートだ、と私は悟る。2年前、この道をとおって私はあの人の元へと。毎週のことも有れば、10日、いやもっとか。以前読んだ漫画のセリフを思い出した。『男は生まれてからずっと母親の胎内に足を残したままなんだよ。初めて女を知ったとき、その足がようやく引っこ抜けるんだ』私の身体はまだあの人の中に残されている。それなのに。ごめんね、とつぶやけば、言葉は形となり、頬をつたう。すぐに風が流してしまうけれど。

「男はね」と前から声が聞こえた。「本気で泣かれるとどうしていいのかわからないんだよ」泣いてなんかいないさ、と私は微笑む。自己満足の極みじゃねえか。大丈夫。なぜなら。

私には住むところがあり、職もあり、こうしてでかけられる男の子もいる。なにかあれば電話できる先がある。それはつまり幸せ者ってことなんだ。これ以上、なに望むものがあるだろう。天を仰いでビルの中に浮かぶ小さな茜空を見つめた。神様がいるとするならば、ありがとう、私はアナタを愛している。私につながるみんなを愛してる。ありがとう。時折嫌な音を立てる前輪を無視して、私たちはそのまま世界の果てへ走っていった。


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