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涙あつめて花いちもんめ [マボロシの男たち(エロ風味)]

雷鳴が、遠くひびいている。

薄鈍色の雲が滴り落ちて、それは建物を砕けとばかりにやがて激しく打ち付ける。私はその機関銃の乱射に耳を傾けながら、ただひたすら、喪失の痛みに耐えていた。欠損を充填させる有効な方法はあるにはあるのだが、それを行うわけにもいかず。音楽の中に身を沈めていた。浅川マキはまた男にだまされた女をうたっていた。雪の季節にはまだ早いから、雨は降るがアナタはいない、と声に出して、あまりのつまらさに少し笑った。でももうそのときには、いつの間にかかったるい女の声が「There is an End.」と放りだすように囁いている。終わるなら終わってくれたほうがまだマシかもしれない。無駄にビルトアップした身体の使い道もなく、私は途方にくれている。このまま布団の中へ埋没し続け、やがて下の階に落ちて平和な午後の歓談へ闖入とでもなったら面白いのにな、とこれまたまったくどうにもならない連想をしたが今度は笑わず。笑う代わりにため息をついた。これでまたひとつ年を食ったと舌打ちして、しばらく。

呆然としているばかりでは非生産なことこの上ないので、身を起こし、買ったばかりの吉屋信子怪談集を手に取って、パッとひらいた箇所の短編「鶴」を読み進める。だがこういうときは続くから結局、己の馬鹿さ加減を思い至らしめる内容――つまり男を信じた女の末路について直面させられる羽目になった。信子よアナタもか。ともすればかろきねたみのきざし來る日かなかなしくものなど縫はむ。そんな心境になれれば、いいけれど。できることといえば、洗面所に行き、剃刀を手にとって――股間に当てていつもの作業をするだけ。わかってもらえるかしら。ハニー?

つまり、キミがいないことはひどくさびしいってこと。


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