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ZIGGY STARDAST 屈折する星くずと火星から来た蜘蛛たちの栄光と凋落 [音楽レビュー]

The Rise And Fall Of Ziggy Stardust (EMI) [ENHANCED CD]

The Rise And Fall Of Ziggy Stardust (EMI) [ENHANCED CD]

  • アーティスト: David Bowie
  • 出版社/メーカー: Emi
  • 発売日: 1999/09/06
  • メディア: CD

奇跡の一枚。

「ジギースターダスト」というアルバムを形容する際、これ以上の言葉あるのだろうか。
才能あるミュージシャンなら、一曲や二曲、素晴らしい作曲ができるだろう。スターになる素質があるなら、ステージに立っただけで女の子達を失神させられるだろう。もちろんその両方をもち、なおかつ運に恵まれていたらスーパースターになれるだろう。だが、(それだけならワンサといる)一介の才能あるミュージシャンが、自ら架空のスーパースターを演じて、しかもネタ扱いされることなく、言葉の本来の意味で自他共に認めさせ、現実の自分とはまったく乖離させて葬り去った、そんなことをやった人間が、有史以来、あり得たのだろうか。そこには彼だけがいて、後は誰もいない。
だからこその「奇跡の一枚」なのだ。

いまそんな遣り方で売り出しても、笑止で終わってしまうだろう。個人規模まで卑小化させるなら、たとえばわたしが「日本一の美女です」と自称したところで、たんなる「電波」としてどこかへ追いやられてしまうだけだし、あるいはネタとしてなら「日本一の美女」として売り出した研ナオ子のようなケースもあり得るだろう。現在ではそのような意味合いの方が、むしろ一般的ではないのか。


言葉通りの意味合い「スーパースター」として君臨しようとした「ジギー・スターダスト」をそのまま受け取り、享受し、楽しめた時代というのを我々はうらやむべきであると思う。幸せな関係を。

ミュージシャンというのは誠に不遇であると言わざるを得ない。
大衆というみだらで不貞きわまる売女に忠誠を誓い続ける、哀れな童貞のようだ。その時々で楽しみカタが違う大衆に、しかも同じ曲を求めながら新しい活動をも求めるという矛盾する行動を強いられ、いつ飽きられるかわからない神経症的緊張感の中、自らの才能を絞り出し続ける。


「レディ・スターダスト」で「誰もがノックアウトされる」と形容されたマーク・ボランは、そんな大衆に、ぼろきれのように放り出され、やっとパンクバンドの前座として復活した頃は、すでに総入れ歯、かつら状態だった。そしてしんだ。大抵のミュージシャンは、そこまでもいかない。それを思えば、彼は幸せだった、とすら言える。惨めなスターの生涯。それをボウイは自らは傷つくことなく、またクラプトンのようにバンドを作り、他者の才能を吸収し自分のモノとし使い捨てる、ということをせず、もしくはストーンズのように、複数でその負担を分担する、あるいはブライアン・ジョーンズのような捨て駒-負債を全て背負わせ、墓場へ追いやることで再生を図るなどということをせず、一個の「スター」を創世し、凋落させ、無数の草臥れていったスターたちの末路を目の当たりにさせた。今まで気づかないふりをしていたファンという怪物どもに、突きつけるかのように。「救世主の誕生と受難、殉教の物語」というテーマすら設けて。

ホントウに彼が違う星からやってきた救世主であり、無理解な人々によって葬られた殉教者なのか、あるいは単なる善良な魅力ある青年が、善良であるが故に祭り上げられ、世界を救う運命を担わされた挙げ句、その救世主としての役目をオーディエンスが望むが故に、余興として殉死させられた、のかはわからない。ただ救世主の受難というストーリーが常に待ち望まれている、はまりこんだ人間は、その宿命から逃れられない。ジギーははめこまれ、また自らもそう望んだ。選ばれた人間として、そのさだめをまっとうする。


ジギースターダストというアルバムに永遠を閉じこめるために。

「ヴェルヴェット・ゴールドマイン」はストーリーや衣装がどうだ、とか言う前に、二番煎じ三番煎じを制作時から運命づけられていたというか。すでに時代を追体験しなければならない状態であればこそよけいその感は強い。マリリン・モンローに対するメイミー・ヴァン・ドーレンのようなものだ。

その後、ジギーを葬り去ったあとのボウイは、声の太くなったおっさんとなり果てた。ジギーを否定したおかげで、ボウイ債を発行できるまでに生き延びられたのではないか?そうした彼のその後は(否定と肯定と諦観の繰り返し)いわゆる「ロックスター」的にはものすごくかっこわるい。

だが私は早川義夫もどきの言葉を捧げたい。「かっこわるいことはなんてかっこいいんだろう」


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コメント 33

ルースターズ

一瞬の隙ありません。素敵な文章です。
グラムの王様ですからね・・・。
「屈折する星屑の上昇と下降、そして火星から来た蜘蛛の群」

最後に義夫ちゃん使うなんて・・・・。
僕もこの言葉をJACKSもどきで捧げます。「VACANT WORLD」
by ルースターズ (2005-01-17 07:51) 

rodman91

ホント、瑠璃子さんってロックに造詣が深いのですねぇ・・・感動。
そう、私が「ジギー・スターダスト」を聴いてまず思ったのは「デビッド・ボウイの声が甲高い!」って事でした。
でも何度も聴くうちに、その声がツボにハマルんですよねぇ・・・。
そして思ったのは、「これが発売された当時に聴きたかったなぁ」って事です。
なんというか、その時の空気も体感したかったなぁと。
瑠璃子さんの文章を読んで、その気持ちを強くしました。
by rodman91 (2005-01-17 08:32) 

kiyo

なるほど。うんうん。
by kiyo (2005-01-17 11:33) 

nal

私もめちゃんこスキです!でも、今は家では聞けん(泣)後期(中期?)のポップ路線も世の酷評ぶりよりかはナンボか評価してます。
by nal (2005-01-17 12:45) 

瑠璃子

>ルースターズさま
おお!ほめていただきありがとう。うれしいです。アタシの意訳に対し
正しい訳もフォローしてくれていて…。まことに感謝。
義夫さん、復活しましたよね。ライブ行きたかったなあ。空っぽがいっぱいの世界。
>ママン
やーだ、ママン、改まってそんなwてれまっせw
喜んでもらえてよかった。紹介者冥利に尽きます。
そう!みんないまのぼわっとしたおっさんくさい声しか知らないから
若いころのあの振り絞るような甲高い声ってきっと意外でしょうね。
追体験は切ない限りです。祭りの後に取り残されたようなカンジで。
しかし実はボウイの造詣は、ミッチェルのほうがすごいです。ヤシはヲタです。
>kiyo氏
まだ買っていないのなら、ぜひ購入すべきで、ある!
>nalさん
はじめまして(じゃなかったらごめんなさい)
おおー好きな人が多くてよかった。うん。私もポップ路線は否定しません。
(ポップ路線を積極的に評価しているのはミッチェルなので、いつかヤシの
ブログでそのあたりを開陳してほしいものです。)
あんなに酷評することはないだろうと思います。なにせ、ボウイほどになると
生涯そのものが壮大なロックオペラみたいなものだから。
by 瑠璃子 (2005-01-17 13:28) 

buzzin

むぅ・・・うなってしまうような文章ですねぇ。
ぼろきれのマーク・ボランかぁ・・・確かにそうなのかも。
最初から全てを分かってたんだろうなぁボウイは。
「ロックンロールの自殺者」は、なにか暗示めいた感じがしますが。
by buzzin (2005-01-17 14:47) 

瑠璃子

ありがとう!ボウイはかなり戦略的な人だと思うから
(計算高いのはミック・ジャガー)ジギー崇拝はある程度予測していたと思う。
ただ全否定しなければならなくなるほど熱狂的に享受されるとは思ってなかったような。グラムという時代のあだ花を生み出すなんて。
by 瑠璃子 (2005-01-17 16:42) 

ミュージシャンに限定されるかわからないが、アーティストというのは数奇な生き方をする。その才能を振り絞るためなのか。僕はアーティストになれないな。無理無理。凡人バンザイ。
by (2005-01-17 17:50) 

kiyo

∑('◇'*)エェッ!?
なぜ分かったのですか?(笑)
あ、メガネ発見(笑)
by kiyo (2005-01-17 18:50) 

瑠璃子

>ふじさん
凡人万歳!に激しく同意。
>kiyo氏
眼鏡祭りに載ってみました。特にトラックバックしませんが(笑)
by 瑠璃子 (2005-01-17 19:02) 

メガネいいですね☆
クールに叱られたい感じです。
by (2005-01-17 19:39) 

ごめんなさい、メガネに"nice!"つけさせてください。どうしても。
by (2005-01-17 20:12) 

8

マークボランはジプシー占いで
30歳まで生きられない
と言われたそうですが
実際30歳になる1週間位前に
自動車事故で死にました。
なにもそこまでやらんでも.....。
でもマークボラン大好き。
ストーンズもビートルズも聴かないけど
TREXは大好きよ。
by 8 (2005-01-17 20:59) 

瑠璃子

>スナフキンちゃん(赤ずきんちゃんみたい。失敬w)
眼鏡姿萌えの人多いんでしょうか。眼鏡+マスク姿をうpしようかと思いましたがやめました。やめて正解だったかも。
by 瑠璃子 (2005-01-17 21:09) 

瑠璃子

うん。アタシもマークボランは大好き。電気の使者。
しかも確かその逸話って、30歳までにしぬだろうって言われて
「オレはロックスターになるんだから当たり前だ」とかぶちかましたんじゃなかったっけ?ビックモローみたいに怯えてないところがいいな。
TREXって始まりも終わりもないカンジがとってもいい。濡れる。
by 瑠璃子 (2005-01-17 21:12) 

buzzin

もうお聞きになってるかもしれませんが、マーク・ボランなら、
「ズインク・アロイと朝焼けの仮面ライダー」。 これ俺的最高。
なんせ藤岡弘、の「仮面ライダー」に触発されたタイトルがまずいいw
そしてアルバム全体の、独特の浮遊感がイイ。どっちかってとR&Bぽい。
ボランブギーも好きだが、こんなTREXもいいかなと。(あの変なコーラスは健在w)
by buzzin (2005-01-17 22:37) 

瑠璃子ねぇさま。風邪はどうだい?おいらは今日も鼻血が出てるよ。
垂れ流しさ。
by (2005-01-17 22:44) 

phantom

TREXはなぜか買っちゃいました。

ドイさん?
by phantom (2005-01-17 23:00) 

hanao

はじめまして。しばしば読ませていただいております。文章圧倒的ですね。「ZIGGY STARDUST」は、僕が買ったDAVID BOWIEの最初で最後のレコードです。これ以上は無いと思い込んでしまったので。他のアルバムでよいものがあれば教えてください。
「ROCK'N'ROLL SUICIDE」=ロックンロールの殉教者だと思ってる。
ではでは。
by hanao (2005-01-17 23:51) 

瑠璃子

>buzzinさん
いやーどもう。「朝焼け」は聞いたことなかったっす。
いい加減グラムでごめんにょw今後買ってみるっす。
>ふじさん
相変わらず悪化の一途でし。なんとか頑張るでし。
>phantom氏
うぃうぃ。あれは聞きやすいから。土井です。しばらくはコレで行きます。
ちんぽ。(←意味無く言ってみた)
>hanaoさん
ご来場ありがとう!サンクスです。
ボウイについては後ほどボウイヲタが降臨予定です。
by 瑠璃子 (2005-01-18 00:28) 

わらばー@見ッチェル

ども、突然お邪魔します。ボウイのアルバムではZIGGYがあまりにも出来杉くんなので他のオススメがしづらいところですが、例えば、美しいメロディの揃ったHunky Doryあたりはどうでしょうか。80年代の有名なアルバムではLet's Danceなどもあります。個人的にはScary Monstersが好きです。
by わらばー@見ッチェル (2005-01-18 00:44) 

8

ふじかわさん大丈夫なんすか?
by 8 (2005-01-18 01:03) 

「かっこわるいことは なんて かっこいいんだろう」
この台詞で、何故か、前田日明を思い出してしまう。
(おいらが紙プロ読者ってのは内緒w)

俺も、格好悪い事や無様な事を、「人を守る為になら出来る」人に成りたい。
by (2005-01-18 02:34) 

瑠璃子

>ハッチポッチミッチ
サハフ情報相に言われても説得力ないでし。
今後の「漏れとボウイ論」に期待。
>8氏
ホント。鼻血とかって軽視しているとイカンです。知人と同じ病やもしれませぬ。とにかく人間ドックかなにかにいってください。写真見たいのはみんなの願いなのです。
>ホーク氏
そうそう。無様と思えることでも輝くのですよ。漢なら。
by 瑠璃子 (2005-01-18 15:05) 

kiyo

買いました。
聞き込んだ後に乾燥を。
by kiyo (2005-01-18 19:23) 

しんたろ

あぁ〜kiyoさん待って! ついでに俺のTシャツも!!
by しんたろ (2005-01-18 21:02) 

瑠璃子

>kiyo氏
私のズロースもついでにお願い。
by 瑠璃子 (2005-01-18 22:59) 

kiyo

>しんたろ氏、姐さん
え、俺のグンゼのヴリーフのあとでよい?
by kiyo (2005-01-19 00:19) 

テネマント・レディ

広く知られていないけれど、ジギー・スターダストのモデルはボランです。「俺をテーマにロックオペラを書いてくれ」って言われ作ったそうな。(メロディ・メイカー紙)それとボランが総入れ歯で鬘ってw出典は何でしょう。
内外の資料では見たことがないのですが・・よろしければお教えください。
by テネマント・レディ (2006-01-07 10:31) 

瑠璃子

テネマント・レディさま
はじめまして。ようこそおこしくださいました。
貴重な情報ありがとうございます。なお若干補足させて頂ければ、ジギースターダストのモデルについては、ボウイ自身、様々な言及があるので、ボランであると断言してよいか、私には疑問です。
なお、入れ歯云々については、例えば私の手元に「ロックンロール・バビロン」という本がありますが(初版本)思いっきりボランの入れ歯が大きくずれた写真が載ってます。ザ・ロック・レクイエムの中でも若干触れられていたように記憶しています。
by 瑠璃子 (2006-01-07 13:45) 

Tenement Lady

ボウイファンなのは結構ですが、ボランへの記述があまりにも不正なので
再度、ファンとして抗議と訂正を要求します。
パンク・バンドの前座とありますが、T.レックスの前座がパンクバンドの
ダムドです。カツラと入れ歯に関しても情報源を教えてただきたい。
ボウイと比較してボランを貶める記述は何より親友ボウイが悲しむのでは。
by Tenement Lady (2006-01-07 18:35) 

瑠璃子

再度コメントありがとうございます。
さて訂正云々については、上記二誌を読んでからにしてくれませんか?
私は情報源を提示してます。あとはご自身が調べた上で判断してください。
それと私は貶めてなどおりません。
by 瑠璃子 (2006-01-07 18:54) 

グラムロック

広く知られていないけれど、ジギー・スターダストのモデルはボランです。

↑なにいってんの?お前。こんなの有名な話しじゃん。
てか一方的にボランが言いふらしてただけなのも有名ぢゃ。
お前が知ってることなんて大抵みんな知ってるよ。
自分だけが知ってるというツラされんのは迷惑やめろよ。
自分が知ってる→誰も知らない→自分が真のファンっていう心理が
ボラン、レノン他を頃したようなもの。痛いファンって厭でつね。
by グラムロック (2006-01-07 19:31) 

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