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悪魔のキューピーと恐れられた男 [書を捨てよ、街へ出よう(読書感想)]

広島ヤクザ伝―「悪魔のキューピー」大西政寛と「殺人鬼」山上光治の生涯 (幻冬舎アウトロー文庫)

広島ヤクザ伝―「悪魔のキューピー」大西政寛と「殺人鬼」山上光治の生涯 (幻冬舎アウトロー文庫)

  • 作者: 本堂 淳一郎
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2003/08
  • メディア: 文庫

「仁義なき戦い」第一作目の主人公はもちろん(というか全シリーズを通じて、ともいえるかな)菅原文太扮する「広能昌三」なんだけど、忘れてはいけないのは“灰汁を取らない漬物屋または夜は俺のもの”こと梅宮辰夫演じる「若杉寛」(学ランコスプレは強烈だ)である。

 最近この「若杉寛」のモデルになった「大西政寛」に興味を持ちいろいろと調べている。今回購入した本堂淳一郎氏の『広島ヤクザ伝 「悪魔のキューピー」大西政寛と「殺人鬼」山上光治の生涯』もその一環である。今出回っている大西に関するおそらくはほとんどの本は氏の記述や取材の上で成り立っているようにも思える。それほど、(当時まだ当事者が存命だった状況で取材された)氏の記述は大きな影響を持っているのだろう。

大西政寛はモルヒネ中毒で父を失い、母に育てられ、尋常小学校高等科時代授業中絵ばかり描いていたのを教師に見咎められ「親父と一緒の脳病院で絵の先生にでもなるんか?」と罵られたことで爆発し、文鎮で殴りつけ放校処分となる。カシメ衆となり徐々にヤクザと親しみ組に出入りするようになった頃召集され戦争に赴き、復員後阿賀で土岡組博徒となる。そこで波谷守之や美能幸三(広能昌三のモデルであり「実録仁義なき戦い」の元ネタになる自叙伝を書き上げた人物)と知り合い、義兄弟ともいえる仲となり、敵対する山村組山村辰雄(仁義なき戦いでは「山守のおやっさん」で有名)の姦計に堕ち、組を裏切り、土岡組組長を殺すことを決意、託した美能がしくじった事により、山村組長に騙されていたことにようやく気づき、だがそのときには全てが遅く、自暴自棄とも取れる行動を繰り返した挙句、警官隊と撃ち合いになり、絶命する。この本は彼の行動を知り合いの博徒の証言をはさみながら丹念におっていく。

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表題の「悪魔のキューピー」とは彼についたあだ名である。怒らせたら手がつけられないほど暴れるような男でありながら、画像でわかるように実に童顔で愛らしい顔立ちをしていることからつけられた。(だからどう考えてもたつっぁんはミスキャストだな)私も何枚か画像をみたが、確かに人形のような顔立ちで、可愛らしいとしか言いようのない秀麗さである。この顔が怒ると「すっと眉間が立つ。それをみたら震え上がらないやつはおらんかった」となる。確かにそこに凄みを感じる顔である。こんな顔した人間が顔色ひとつ変えないで人の腕をぶった切るのはまさに身の毛もよだつ光景である。そしてこんなのが日常だったといわれる阿賀・呉の当時の凄惨さが伺えようというものだ。

読み進めているうちに、大西政寛が中国戦線へ出兵したという記述があった。本の中ではずいぶん人きり役を押し付けられたらしいという伝聞が記載されている。広島第五師団に所属、となるとシンガポール華僑大粛清に関わっている可能性があるが、定かではない。このあたりはもう少し調べたいと思った。

だが彼が悪魔のキューピーと呼ばれるような所業を為しえたのは(小平とは違って)この中国戦線での戦いが影響しているとは言いがたい。彼は因縁をつけられただけで、カシメ現場の顔見知りだろうが(愛用の肥後守できりつける)海軍兵士だろうが(刺身包丁で腹を割き片耳を削ぐ。呉で海軍兵士相手にこれだけのことをしてのけたのに彼が捕まったりしたことはない。どういう経緯で捕まらずにすんだんだろ)問答無用で暴力の洗礼を浴びせてきた。そういう人間なので(仁義なき戦いの冒頭でもでてくるように)シマを荒らしていきがるような愚連隊の輩の腕を切り落とすようなことは造作もなかった、とはいえるかもしれない。(ただ戦後、場当たり的な向こう見ずさが加速度的に増し、また同時に、「人」とのつながりを求める姿勢が増す様子を読み進めるにつれ、おそらくは戦争の影響が大きいとは察せられるが)授業中も授業に集中することが出来ず絵ばかり描いていた(そして非常に才能があった)こととこの止めようもない憤怒を考えると、なにか疾患があったのかもしれないということはどうしても頭をよぎるが、今ですら学習障害児への風当たりが厳しいものがある。いわんや当時をや。時代の流れの中でひたすら死地をさまようような生き方を読めば読むほどもうちょっとなんとかできた…というむなしい気持ちばかりが浮かんでは消える。 あまりにも短い生といつまでも記憶に残る死。そして彼がお膳立てした「呉第一次抗争」はさまざま支流を飲み込みながらやがて「広島戦争」という奔流となり、「破壊への意思」そのものように、数多くの犠牲者を嘲笑いつつ、なぎ倒しながら突き進むのだった。

ちなみにここのサイトに「仁義なき戦い」第一作目の登場人物たちの画像があった。


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コメント 4

しま仔


初めまして

私は最近になって「悪魔のキューピー」の存在を知りました。
ですが幾ら検索しても彼自身の詳細は検索されず、また、
写真についてもなかなか見つかりません・・・。

ようやくこちらのブログにて、詳細が分った次第です・・・・。
また、写真等がありましたら教えていただけると嬉しく思います。

失礼いたしました。



by しま仔 (2010-07-09 21:11) 

あきら

大西氏は、恐らく先天的な精神障害でしょう。どう見てもまともな精神状態には思えません。
by あきら (2010-09-14 10:58) 

あきら様

当事者から「アスペルガー症候群ではないのか?」という指摘がなされています。
兵役で人格障害を併発させたかこじらせたかしたのでは?と。
by あきら様 (2010-12-17 16:45) 

w

おたくの解説には(  )が多い。
()を頻繁に入れるならひとつの文章に仕上げろ。
読みづらい!
by w (2011-08-28 20:40) 

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