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「インランド・エンパイア」生理的心地よさ [ごきげんいかがワン・ツゥ・スリー(日記)]

リンチの作品でいちばん好きなのはマルホランドドライブだ。あらかじめ失われて「しまった」、その喪失感が画面の中に満ちている感じがして。
インランド・エンパイアはマルホランドドライブと同じようにハリウッドを舞台にし同じように多重構成なストーリーでなおかつ両者のテーマも通底していることを考え合わせればリンチの一貫性こだわりに恐れ入るばかりだ。たまらんです。
話は、ローラダーン演じる女優が劇中主演する映画の撮影風景を縦軸に(どちらかというとローラダーンそのものが縦軸ともいえる)それをテレビで見守る女、ウサギ人間の公開録画番組、ハリウッドにたむろする娼婦、ポーランドで男たちがもめたりといった映像が絡んでくる。羅列しただけではなんのことやらさっぱりだろうが、本編をみてもさっぱりだから安心したまえ。リンチが思い描くイメージが次々と画面を横切っていく。
180分という時間はかなり長く、鑑賞中は眠くなったりだれたりするけれど、そうしたこちら側の感情を見抜くように突然娼婦ダンスが始まったり、絶叫するローラダーンのモノクルオシイ顔がこれでもかと画面いっぱいに映し出されたり、下手なホラー映画が裸足で逃げ出すくらいキョーレツなピエロの顔が大写しになったりする。つくづくリンチは「生理的」な感覚を知り抜いていると実感。だからこそそれ以外のシーンは実に生理的心地よさに満ちている。(例えば雨粒が目に入ってぼやけて見える街灯の感じとかふと振り向いて目に飛び込んできた他人の顔といった具合の)
リンチの映像は、リアリティはないが生理的感覚に根ざしているが故のリアルさがある。退屈だが見るのをやめようとは思わない、惹きつけてやまない磁力がある。
ストーリーはフロイト的解釈でも古典映画からの引用でもさまざまに読み取れるようになっている。いつまでも残るシーンとともにあれこれ解釈を考える楽しみもリンチ映画の魅力のひとつだ。見終わってウサギ人間の意味を考えてしまったなら、既にリンチ的箱庭迷宮にとらわれた証左なのだ。


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