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「なぜ孤独にみんな、なれてしまうの?」 [マボロシの男たち(エロ風味)]

 明けない夜はない、やら、夜明け前がいちばん暗いだの、励ます言葉は多々あれど、それだって、あんた、暮れない日はないし、夕方になったらカラスがないているじゃないか、そんな風におもって、待ち行く人を長い間ずっと眺めていた。まるで対岸の風景をみるみたいに、肩を寄せ合う人々に目をやって、しばし無関係。ひねくれて尖った目つきをするほどもう若くなくなってしまえば、あとはただ、小さな微笑が浮かぶばかり。愛した男を捨てて捨てられただ一人。そんなことをぼんやり考えていた。

 ほら、みて、と私は服の裾を短くひいた。

 白っぽい、朝の池袋はむやみに間延びしていて、生ぬるいあくびがよく似合う。午前よりも昼下がりに近い時間をそんなところで歩いてれば、入り口兼出口から吐き出される二人連れに遭遇することになる。外にでてもなお身体を密着させているひと、面白い映画でも見てきた後のように快活な二人、ねっとりとあっさりの温度差が著しい組み合わせ、とか。なかでも印象的なのは、出てくるのも別々なら帰るのも別々、軽く挨拶して離れていくひとたち。彼はちょっと眉をあげると、ずいぶんサバサバしているんだね、といった。

「きっと、彼らはセフレかショーバイな方なんじゃないかな」
 なるほどね、と頷いて。水をたたえたような表情の、若干お疲れ気味に見えるその女の背を見送りながら、私は既視感を覚えていた。つい何ヶ月か前は、私もあんなふうに別れるのが当然だとおもっていた。別々にシャワーを浴び、身体を重ね、どこか澄んだ意識で、私の上で動く男を見ていた。読点が打たれれば、今しがた知り合ったような顔で言葉を拾いながら会話して、外へでればまた見知らぬ人となる。誰かと身を寄せ合って、手のひらにはぬくもり、そんなものとは無縁であるのが当たり前で。感慨は走馬灯のようにぐるぐると、いつまでもまとわりついてくるから頭を振って彼を見る。爾来ずっと微笑んでいるので、どうしたの?と尋ねてみれば、いやね、と鼻を指でこすって。前にいるカップルみてよ。いわれるがままふと見れば、手をつないで、なにかを話しながら笑っている二人。
「俺さ、昔ああいう人を見ると、俺とは関係ないけど、幸せになっておもっていたのね。いまこうして見れば、ああわかるよ、俺もだよって声をかけたくなる。それが不思議で、いいなって」

 彼は私へかがみこむようにして、目の奥を覗き込んだ。手のひらには暖かい感触。彼の手をなぞる。ゆっくりと私の手は包まれていく。口の端に浮かぶ静かな微笑を見ながら、ゆく川の流れについて考える。お昼ご飯なに食べようか、と私も笑って、みる。


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