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「ドッグヴィル」ラース・フォン・トリアーの無意味な悪意 [映画レビュー※ネタバレ注意]

ドッグヴィル スタンダード・エディション

ドッグヴィル スタンダード・エディション

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • 発売日: 2006/03/24
  • メディア: DVD


ドッグヴィルという嫌な映画を見た、と知人にその大まかなストーリーを話したところ、「それは君が好きな小説の主人公たち、そのものじゃないか」と言われてしまった。違うと思うな、と私は返した。「フラナリー・オコナーなんて、“善人”いわゆる“フツーのヒトビト”がそのフツーさゆえに選択する出来事によって不幸な目にあうっていうのはあるけれども、そこにあるのは神の視点で、ある種の救済としての不幸なんだよね。でも『ドッグヴィル』には神の視点が“不在”であるがゆえに、ひたすら嫌な感情しか残らない」

ラース・フォン・トリアーの作品は、「奇跡の海」でその悪意の照射をまともに食らって以来、見ないようにしていたのだが、今回、友人から「いろんな意味ですごい映画」と紹介され、もう一度見てみようと思った。ハリウッド俳優を使って彼がナニをやったのか見てみたかった。でもそこにあったのは変わらない「自分視点」からの「悪意」の照射であった。

舞台は山の中のド田舎にあるドッグヴィルという人口15人程度の村。そこに都会からグレースという女(ニコール・キッドマン)がギャングに追われ迷い込んでくる。村の指導者的立場である作家志望の青年は彼女に惹かれ、かくまおうと提案するが、それはやがて村を巻き込んだ狂気へと発展していく、というのが大まかなストーリー展開。

匿ってもらう代わりに村の人々の労働を肩代わりしてみたら?と作家志望の青年に提案され(そしてそれは彼の“傲慢”な実験的意味合いも含んでいた)グレースはこまごまとした雑務に終われる日々をおくる。村人は感謝し両者の関係は良好に思えた。だが、ギャングが懸賞金をかけるなど執拗にグレースを探し始めると、村人たちの中にある種の権力的意識が芽生える。かくまってやっているんだから、通報されたくなければいうことを聞け、とグレースは挙句『奴隷』の立場にまで身を落とす。ついには村に混乱をもたらしたとしてギャングに通報されてしまうが、はたしてグレースはマフィアの娘だった。彼女は村人に裁きを下し、焼き払って立ち去る。

人間不信と悪意に満ち満ちたこの寓話は、プライバシーなんてないことを表現する、ドイツ表現主義の稚拙な再現のように個々の家は単に線で表現され、まるで舞台のように展開していく。要所要所でナレーションにより人物の心象が説明され、丁寧に綴られていく。

耐えられないほど嫌な話ではあるのだが、最後まで見てしまうほど、物語の磁力は強い。確かに単調で画面構成が絵としての魅力には絶対的に欠けている為、途中飽きてしまったりはするのだが、それでも目を離すことはできない。安手のホラーよりも断然恐ろしい話であることは間違いない。個人的にはこの映画を見て徹底的に人間不信に陥った時期の梶原一騎の作品を連想した。まさに「人間の性悪なり!!」と大書しているようだ。

だが、私はこの物語を「嫌な話ではあるが傑作だ」と評することは出来ない。なぜなら、前述したとおり、この話には「神の視点」が「不在」であり、俯瞰して物語を眺めるというよりは、登場人物たちの目線どおりをたどらざるをえないからだ。ラース・フォン・トリアーが宗教者であるのかどうかは私は知らないが、神による救済のないこの物語はだからこそ決定的に破綻しているがゆえに、私には受け入れられない。

確かに既に神は「死んで」しまっているし、そもそもそうした「不在」をテーマにした「人間の観念」による「行為」の愚かしさを描いた映画であることは十分に理解しているのだが、どうも突き放し方が中途半端である気がしてしまう。

このあたりの感じ方は、もしかしたら私が「性悪説」ではなく「性マヌケ説」を選択しているからだろうか。悪意よりもひどいのは軽蔑である。実のところ、私のほうがラース・フォン・トリアーよりも酷いカタチで人間不信なのかもしれない。


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Leshige

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by Leshige (2020-01-24 06:15) 

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