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【リメンバー・ミイ】ちあきなおみVIRTUAL CONCERT 2003 [音楽レビュー]

ちあきなおみ VIRTUAL CONCERT 2003 朝日のあたる家

ちあきなおみ VIRTUAL CONCERT 2003 朝日のあたる家

  • アーティスト: ちあきなおみ, 水谷啓二, 倉田信雄, ちあき哲也, 小椋佳, 服部隆之, 飛鳥涼, 瀬尾一三, 友川かずき, スクランブル
  • 出版社/メーカー: テイチクエンタテインメント
  • 発売日: 2003/04/23
  • メディア: CD
久しぶりにテレビで動くあの人をみた。
 
凛としてしなやか。その歌声は地に足をどっかりとつけたかの如く磐石で、ゆるぎない。張りがある声が透明感を漂わせながら闇を貫く一筋の光のようにまっすぐこちらへ切り込んでくる。だが彼女の歌は私たちを包み、くるみこんでくるように暖かい。
 
放映された番組は、彼女のそれまでの出演場面から構成されていて、10代の妖艶で、しかも消えた時点の容姿とあまり変わらない姿に驚いたり、デビュー当時からあの歌唱力だったことに感嘆したり、彼女のインタビュー映像を見て、この人はかなり男っぽい性格なんだな、と実感したり。船村徹や梅沢富美男など、関係者からの談話もあるが長々やるわけでもなく、基本的には彼女の歌を流すことに終始しており、この番組を制作したスタッフも、彼女の歌を愛している様子が伺えてうれしかった。
 
彼女が歌わなくなってもう何年になるのだろうか。
 
これほど「もう一度」と本来的な意味で復活が切望されている歌手は彼女ぐらいだろう。たとえば山口百恵などは復活をラブコールされているが、どちらかというと大衆の視線はややもすれば彼女の歌をナツメロ視線、歌そのものよりも彼女の歴史を目の当たりにしたいというある種の低俗なものがたぶんに含まれているのは否めない。だが彼女の復活を切望している人たちはそうだろうか。彼女の歌わなかった歴史よりも、その年齢であの歌をどう歌うのか、その一点に興味があるのだろうし、本物の歌手が少なくなったと言われる今だからこそ演歌であってもジャズであってもブルーズであっても器用に歌いこなし、その情感を自分のものとしてアレンジして提供できるその応用力が必要とされるのではないだろうか。
 
その番組を見終わって、久しぶりに彼女のライブ盤を聞いた。番組の中で流れた「朝日のあたる家」をもう一度、どうしても聞きたくなったからだ。「朝日のあたる家」はこのVIRTUAL CONCERT2003にしか、収録されていない。
 
アニマルズでのエリック・バートンの絶唱を覚えている人も多いと思うこの曲はもともとアメリカ民謡らしい。ちあきファンの間では幻の絶唱と賞されているそうだ。彼女は原曲で歌ったわけではなく、ある歌手が訳詩したものをややドラマチックに詠唱した。なるほど。確かに『幻の』と冠つきになるのもうなづける。あの歌手の訳詩をここまで歌いこなせることに驚嘆した。そのある歌手とは、伝説のアングラブルーズ歌手の浅川マキである。
 
浅川マキは、寺山修二プロデュースでデビューして以来、ずっと自身の音にこだわり続け、メジャーとは軌を一にしない音楽活動を展開してきた。その浅川マキ+ちあきなおみという組み合わせはかなり異色で、たとえるならば福山雅治に山口富士夫が楽曲提供したようなものだろうか。かなり強引な例えであることは重々承知ではあるけれども、まあそれほど隔たりが感じられたわけです。しかしこの例え書いてみてこれ実現しそうだなとふと思ったり。現在はそういう意味で明確な仕切りというか垣根は存在せず、それを取っ払うこと自体が、アーティスト魂の発露という肯定的な捉え方をされているフシがある。だが翻って当時、もっとメジャーマイナーの区切りがはっきりしていた状況を考慮すれば、アングラと紅白常連歌手という“階級差”は厳然として屹立していたのではないだろうか。そういう中で毅然と好きな歌を歌うという姿勢を貫いている姿は実に清清しく、男らしいな、と震えてくる。
 
だがあの癖の強いマキ節をどう処理するのだろうか、と身構えて聞いている自分が馬鹿らしくなるほど彼女は飄々と歌う。平成も17年、そろそろ未成年から脱却しつつあるし、21世紀も5年過ぎたというこの日本において(歌った当時はいざ知らず)「女郎屋」という言葉にリアリティを持たせるのは非常に困難であるにも関わらず、平成18年になろうとするこの現在においても、言葉の一つ一つが強い説得力を保持し、その裏にあのマキの抱える『女』というものの“怨”を十分すぎるほど理解しながら、まただからといってそれを流用するのでもなく、あくまでも自分なりの表現方法で情念を塗りこめ封じ込めていく。女というものの不如意をぎりぎり下品に落ち込まずやさぐれもせず、ひとつのドラマとして的確に構築し、あくまでもエンターティメントとして提供できている曲は“彼女がうたうこの歌”以外に、私は知らない。
 
VIRTUAL CONCERT2003には、この曲のほか「喝采」「紅とんぼ」などの代表曲からシャンソンなど多岐にわたる。自己紹介に始まり、拍手で終わるこの流れは実際のライブ音源を集めたにしてはリアルすぎる。コンサート会場、壇上にいないその人を思い、それでもいつか帰ってきてくれるんじゃないかとどこかで期待しながら、私は今日もこのアルバムを聴く。
(文中で触れた彼女の歌番組、「ちあきなおみ歌伝説」は12/24NHKBSにて再放送します。見たい人は要チェック)

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