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子連れ狼の「はやさ」に現代時代劇の凋落を見た [映画レビュー※ネタバレ注意]

子連れ狼、といえば多くの人にとってはヨロキンこと萬屋錦之介なのだろうけれども、私にとっては「若山富三郎」御大しかいないのである。おそらく、見ていただければ激しく納得してもらえることとおもう。それほど、凄い。

これはまた別項改めて触れるつもりだが、以前トンデモ糞映画「SFサムライフィクション」のレビューを探していたときに、“新感覚”だの“殺陣がスピーディ”だのといった無知蒙昧な寝言を多数読んだが、ああそういう客層の人々にとって昔の時代劇映画とは遠い存在なのだなあと自らのこだわりぶりが妙にツマランものに思えて嫌気がさしたりした。だいたいそうやって糞映画を白痴みたいにマンセーする無知な輩がバカな妄言繰り返したせいであんな「赤影」なんぞというこれまたフィルムと時間と撮影費と俳優の浪費を画面上に結実させただけのオナニー映画ができあがっちまったんじゃねーかバーカと悪態ばかりついていてもしょうがないので閑話休題。

そういうわけで、「時代劇はスピード感がねえ」だのと“おれはオバカちゃんですよ”と明確な診断基準に基づく自己申告をする前に、まずはこの兄弟の殺陣をみるべきなのだ。スピード感がないのはひとえに「最近の時代劇のせい」というのがよくわかるはずだから。

子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる(1972)
(amazonなし。どーいうこっちゃ?)

「子連れ狼」という偉大な漫画(というか既にそれ自体がカテゴライズされるべき文化といえるのかもしれない)について私がここで無用な差し出口をせずとも既にいろんな方が繰り返し述べているし、第一まだ読んでない人は電子書籍等もあるから是非触れてほしい。かいつまんで述べれば、妻を殺された公儀介錯人(原作者小池一夫氏の創作)・拝一刀は一子大五郎をつれ、仇敵である裏柳生総帥・柳生烈堂の放つ追っ手を返り討ちにしつつ、一殺五百両で請け負う凄腕の刺客『子連れ狼』として諸国を流浪する。様々な出会いがあり、別れがあり、やがて大五郎は死生眼(ししょうがん)という善悪の彼岸を見据える目を持つ子どもへと成長をしていく、というのが物語の筋である。

萬屋錦之介版だと大五郎がいう「ちゃーん」という名調子と、ヨロキンの、病人かヤク中かとばかりにシャドー入れまくった『凄み顔』が際立って印象的だ。しかし彼の殺陣はあくまでも『映画的』であり、水鴎流残馬刀という力強さと人体を一刀両断するその鬼神のごとき太刀筋を表現できている、とは言いがたい。このあたりは彼が「かた」の美しさを誇る歌舞伎出身であり、育てられた邦画はクロサワ的リアル殺陣のほうが異端児であったということにも由来するのかもしれない。

とまれ、この映画版子連れ狼でその「仏におうては仏を殺す」冥府魔道に生きる拝一刀を演ずるのはわれらが若山富三郎。(魔界転生では千葉真一扮する柳生十兵衛に「情けなやおやじどの」とか言われてますけれども)とにかくその殺陣の速さ、切れ味ともに申し分なし。

さっと胴太貫が一閃すれば、瞬く間に二三人、あるものは真っ赤な血を噴出し、あるものは手足をあさっての方に「飛ばし」、またあるものは上半身と下半身が切り離されてどうぅっと落ちる。その重量感あふれるスピードには、さすがは先生だなと改めて感動。勝新ともども非常に速い。こうしてみるとカット割だの編集技術だのCGなんかではとても追いつけない殺陣本来の技術、その壮絶さを実感する。香港のクンフーなんかとあまり動き的には変わらない気すらする。例えば編集を細かくつなぐことによってある程度のスピード感は稼げるとはおもうが、基本的には演じている人間自体が殺陣の要領というものを知り尽くし、租借し、自在に操れるようになっていなければ、それは単なる「コマ稼ぎ」であって、本質的な速度ではないゆえ、そうした編集によるスピードはどこか頼りなく、重さが圧倒的に足りなくなる。かみそりを振り回しているのか青龍刀を振り回しているのか、それはなにより演者が「重さ」を熟知しているかどうかにかかっている。日本刀を振り回しているのがどうにも剃刀やタケミツを振り回しているようにしか見えない最近の殺陣がもったりしているのは単なる演者のそうした重さに対する認識不足「速い」技術不足、もしくは殺陣の「カタ」化演舞化なんだな、とがっくりしてしまった。単にこの二人が傑出しまくりなのかもしれないけれども。

ストーリー的には、あの大長編物語を2時間ほどの枠へ押し込むのはたとえ脚本が原作者・小池一夫だとしても至難の技だろうという駆け足さ。だから事前にある程度の予備知識がないとなにがなんだかわからない恐れあり。若山富三郎も27歳という主人公の年齢(そうですよ、拝一刀は27歳なのです。あのとき)にはちょっとトウが二つも三つもたっているような状態だ。であったとしても。スピルバーグとかバーホーベンらによる革命的編集技術カット割の伝播による場面の「早さ」に慣れ親しんだ現代(そんな状況だからアクションでもドラマでもなんでも、昔の映画を見ると、かったるくて寝てしまったりするんだよなあ。のんびりして牧歌的といえば牧歌的だが)においてもなおまったく古びずさびずなお新しく「早い」ということは大変なことである。そりゃタランティーノも熱狂するよ。(それにしても伊藤雄之助の柳生烈堂じゃ反則過ぎ。しかも最初っからフルスロットルでジェット噴射してるし。まあ若山富三郎に拮抗できるほどの……となると、この方ぐらいしかいないだろうけど。その辺の悪役俳優じゃ、富三郎先生ことトミーに睥睨されただけで心臓麻痺起こしそうだし。登場一発目で「こぉんのぉぉおぉ~~こゎッツぱ(唾液)めぇえええぇえええ~~」には大爆笑。やってくれるよな)おまけにもう女優陣がぱっぱっぱと気前よくバンバン脱いでくれる。殺陣シーンじゃぼんぼん斬られた手足が宙を飛ぶ。そういう意味で「ぽろり」が二秒に一回あるような映画だ。ありがたいかありがたくないかは各自で判断するように。それが冥府魔道に生きるわれら親子の宿命ぞ大五郎。


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コメント 5

ホンシメジ

ちなみに柳生一族の陰謀でサニー千葉大先生演じる柳生十兵衞の父、但馬守はまさにヨロキン。但馬=一刀?
by ホンシメジ (2006-04-03 22:40) 

わらばー@見ッチェル

一瞬で斬られる露口茂がかわいそすぎ。
by わらばー@見ッチェル (2006-04-03 23:26) 

abusan

近頃は本物を演じられる役者が少なくなりましたな。
といってもあの頃は役者である事が今より価値があった
ので単純に比較するのは可哀相ですが、コントにしても
故いかりや長介率いるドリフターズと今のお笑いタレント
じゃ全然笑いの質が違いますしね。
by abusan (2006-04-04 02:00) 

u

子連れ狼、ヨロキンを見て大五郎の泣かなさっぷりに圧倒された幼い日の思い出。富三郎さんは何故だか「教育は死なず」が真っ先に浮かぶという、脳内データベース。瑠璃子さんの書きっぷりに触発されたので見ることにします。
by u (2006-04-05 10:52) 

サンフランシスコ人

『子連れ狼 三途の川の乳母車』.....2018年11月11日にサンフランシスコの映画館で上映..

http://www.roxie.com/ai1ec_event/staff-pick-lone-wolf-and-cub-baby-cart-at-the-river-styx/?instance_id=30478
by サンフランシスコ人 (2018-10-22 03:46) 

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