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今日の読書【北原白秋と江口章子】 [書を捨てよ、街へ出よう(読書感想)]

文人悪食

文人悪食

  • 作者: 嵐山 光三郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/08
  • メディア: 文庫
ここ過ぎて―白秋と三人の妻〈上〉

ここ過ぎて―白秋と三人の妻〈上〉

  • 作者: 瀬戸内 晴美
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1987/03
  • メディア: 文庫

ここ過ぎて―白秋と三人の妻〈下〉

ここ過ぎて―白秋と三人の妻〈下〉

  • 作者: 瀬戸内 晴美
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1987/03
  • メディア: 文庫

ふと気になって、北原白秋の二番目の妻だった江口章子(えぐちあやこ)についていろいろと読んでいる。きっかけは「文人悪食」(嵐山光三郎著)にかかれていた「最後は糞尿にまみれて狂死した」という一節だった。(文人悪食についての感想はまた後日)
北原白秋といえば最初の妻-人妻と不倫関係に陥った白秋は、その夫から姦通罪で訴えられ、名声を得た人気詩人でありながら入獄の憂き目にあう、その人妻であった俊子が有名であるが、この人も晩年は間違えて入院させられた隔離病棟にてひっそりと亡くなっている。三番目の妻である菊子夫人は幸福なうちに大往生を遂げている。この違いはなんなのだろうか。

とりあえず作家愛欲ネタならこの人だろうと瀬戸内寂聴「ここ過ぎて」を読む。ただこの本は既にでているいくつかの本を下敷きにして書いているため、本来ならそれらも読むべきであろう。基本的に白秋とその三人の妻の話だが、江口章子についてかなりの頁が割かれている。この本を読んでわかったのは、北原白秋は肖像画などでみる穏和そうな外見とは異なり、やはり芸術家にありがちな独裁者ぶりを遺憾なく発揮していたんだな、ということ。最初の妻とはあのように大もめに揉めた挙げ句添い遂げたにもかかわらずあっさりと捨ててしまっているし。しかし半ば教祖と信徒というような状態であった二番目の妻章子については、突如章子が意味不明な行動をとり勝手に家をでていってしまったのであって、そういうことをしなければずっと白秋夫人でいられたのに。この本をいくら読んでも、なぜ章子が心変わりをしたのかイマイチわからない。全く突如として変心してしまう。おぼろげながら推測できるのは、つまり彼女はそういう人であった、ということだ。物事がうまくいきかけると、自らそれを壊さざるをえないというか。生来の破滅型、破壊型であったのだろう。
二人の妻はその気質-俊子は気性の激しさから、章子はその盲目的な従順さにより選ばれたが、同時に気質故の限界点を突破できず、もろくも“敗れ去って”いき、それぞれのまた性質なりの後半生を送っていく。矜持を保ったまま生きていく俊子はまだよいが、人に頼り切ることでしか生きていけない女であるにもかかわらずその自覚が全くない章子は、悲惨を立体化させたようなその後を送るハメになってしまう。幸せを掴みながらも、客観性のなさと脳病(早発性痴呆症と診断されているから現代で言えば統合性失調症になるのだろうか)により、自ら舞台をおりていく。生家は明治時代でありながら蒸気船を保持するような分限者だったにもかかわらず、章子が成長するにつれ、どんどんと没落していく。子供が人一倍好きなのに自身は最初の夫にうつされた性病により石女だった。夫の浮気に耐えかね上京し、白秋と出会ったその日に体を合わせた。添い遂げ白秋の貧乏時代を支え続けたものの、他の男との浮気により捨てられ、京都の名刹に嫁ぎながらも法会の最中裸で駆け回る狂態を演じ、愛想を尽かされ、脳溢血による半身不随になった上、養老院に送られ虱だらけになり、最後は化け物屋敷のように荒れ果てた実家の、土蔵の中に入れられ、空腹を訴えながら、自らの糞尿にまみれて死ぬ。その最期の友は章子との日々をうたった白秋の歌集であった、という。

で、こう書くとなにやらかわいそうな人と同情心が湧きそうになるが、確かに別な意味でかわいそうだなと思うけれど、基本的に自分自身で悲惨な状況を作り出しているところがあるので、あまり同情しにくかったりする。むしろ周りの男たちが「よく耐えているな」と同情したくなる。とくに、彼女のために大徳寺の管長の地位を棒に振った感もある三番目の夫については離縁した後も(法的な根拠はないにもかかわらず)彼女へ金銭的援助などを行い続け、それは彼が再婚した後も続いたほどだ。せびられたらそれだけ与える。新しい妻が異を唱えるまで割とマメに続いた。正直、法主がそれほどまでにするような魅力ある女性には思えなかった。つまらん感想だけれども、自分勝手に生きるとそれ相応の人生だよ、ということだと思った。それと美貌って人生という尺度で考えるとあんまり役に立たないかも、ということも。


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コメント 5

アキオ

う〜ん、何についてもトレードオフが付いて回る、ってことでしょうか、
美貌は役に立たない、、長い目で見た場合。。

神様はうまく平等という物を作り出した物だ。

美貌を持つにもかかわらず、それに溺れずに生きて行くと
それはそれで、武器にはなりうるとは思うけれど。
by アキオ (2005-07-16 09:59) 

何か興味あるけど
私も印象としては
自分自身で落ちてしまったって感じの人かなぁ~。
この記事を読む限りでは…。

美貌…。

それよりも価値観の合致や共感性や
飯っ!
美味い飯だよっ!(*^ー^*)

まぁ、美貌のない私なんて
そこら辺で勝負って…

虚しい?(w
by (2005-07-16 09:59) 

瑠璃子

>アキオ氏
結局ね美貌をいかすのはアタマであって、そういう意味で客観性がないとダメですね。なんにしろ。直情のママ生きているようでもきっちり自分で始末つけている宇野千代先生はやっぱり凄いし素敵。

>ひかりこ氏
嗚呼この人はそうだよ。もう自分自身でダメにしていくタイプ。そういう意味でちょっと同情はしづらいね。読んでて辛くなる話だった。なんでこうするかねえというところでね。
まあ顔だのなんだのって私もどうでもいいんですよ。既に容色で勝負できる年じゃないしねえ。男にだって顔だのちんぽだの求めてないし。ようはいかに価値観やなんかがあうかってことでねえ。そこで勝負するって別に虚しいことではないぜ。
とにかくいろいろと考えさせられた本でした。
by 瑠璃子 (2005-07-16 15:28) 

今月は2冊本がでたw
by (2005-07-16 22:00) 

瑠璃子

>ふじさん
レスが遅れてゴメンナサイ。
お(・∀・)め(・∀・)で(・∀・)と(・∀・)う!ガンガン本だしまくってくれよぅ!知床世界遺産登録おめでとう!
by 瑠璃子 (2005-07-19 14:04) 

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